目  次 研究内容 研究成果 メンバー



研究内容


【研究内容概要】 (一般の皆さん向け)

1.成果について
(1) 研究の進め方について
 私の研究は高分子の合成、もう少し詳しく言うと「機能性高分子」の合成に関するものです。機能性高分子とは簡単に言うと「賢い高分子」ということになります。どういうことか説明しましょう。普通の「高分子」はたいへん身近で身の回りにたくさんあふれています。たとえば、洋服の繊維はすべて高分子。ゴムもそしてビニール袋やペットボトルなどのプラスチックと呼ばれるものもみな高分子です。そういう意味で現代は石器時代、青銅器時代、鉄器時代に続く「高分子時代」とも呼ぶことができます。ただこれらはいわゆる入れ物として空間を仕切る構造材料つまり壁として使われているものです。これに対して「機能性高分子」は構造材料としてだけで無く、外部のものや刺激に対して反応したり、応答する機能を持つものです。たとえば、光や熱によって形を変えたり、色を変えたりする高分子があります。電圧をかけると光る高分子もあります。あるいはある物は通り抜けさせるがある物はさえぎる高分子があります。これらの応答性の根源はその分子構造にあります。従って私はその分子構造を精密に制御することをまず第一に研究しています。そしてさらにその分子をいかに組織的に並べるかがポイントになってきています。
(2) 具体的研究成果について
 私たちは高分子という有機分子の構造を精密に設計し、合成することで高度な分離機能を持つ高分子膜を開発してきました。分子構造を制御していますから、その高分子は分子を見分ける能力を持ちます。その中でも右手と左手の関係である鏡像異性体分子を分ける高分子膜(光学分割膜)と空気から酸素を取り出すことができる高分子膜(酸素分離膜)を開発してきました。
 右と左の関係の分子(鏡像異性体)は人間にとっては全く異なる作用(生理活性)を示し、たとえば薬害を防ぐためにもこれらをきちんと分けて薬などとして用いる必要があります。普通の有機合成では右と左の分子が半分ずつ生成します。純粋な鏡像異性体を得る方法には二つあります。ひとつは不斉合成といわれる、反応で片方の鏡像異性体のみを得ようとする方法でノーベル化学賞の野依先生の方法がその例です。もうひとつが光学分割とよばれる鏡像異性体を分離精製して得る方法です。通常複雑な操作が必要な光学分割をしかも膜という薄い仕切りの単純な透過で行おうと言うのが私の研究の特徴です。
 光学分割膜で分ける対象は分子という小さなものであり、かつ大きさが全く同じものですので、これは分ける対象としては最も難しいものです。これを分ける高分子材料には分子構造(分子はナノスケールの更に下の大きさ)が精密に制御されていることが不可欠です。私たちはこの様な機能を持つ高分子として「ポリアセチレン」誘導体を用いてきました。この「ポリアセチレン」はノーベル化学賞受賞で有名な導電性高分子ですが、わたしの作ってきたのはその仲間(誘導体)です。この「ポリアセチレン」誘導体は2つの面白い特徴を持ちます。1つは膜形成能に優れること。もうひとつは高分子主鎖がねじれてDNAのようにらせんを巻く事です。膜形成能に優れることは実際に高分子を用いる際に非常に有利です。特に分離膜としては必須です。らせん構造は普通の合成方法では右巻きと左巻きが半々になりますが、私たちはこの巻き方向を制御する方法を10年前と最近それぞれ見出しました。巻き方向が決まればこの高分子は光学活性となり、キラルとなり、光学分割能を持つ可能性が出てきます。昔見出した方法は高分子のもとになるモノマーの構造を工夫したもので、最近見出した方法は高分子を作る際の触媒を工夫したもの(らせん選択重合)です。これらにより多くの光学分割膜を開発してきました。アミノ酸や医薬品などの分割を行い、US特許となっています。
 最近見出した合成方法では、その主鎖のらせんが超分子的に水素結合で固定されており、主鎖のらせんとともにもうひとつのらせんを形成し、また高分子鎖としてはラダー(はしご)状であるので、「高分子―超分子キラルラダー二重らせん高分子」と呼んでいます。この新規な高分子はいろいろな機能が期待できます。たとえば最近私たちはこの高分子を用いて、高分子不斉触媒を開発し、このような規則性の主鎖らせんが有効であることを見出しました。さらにこの高分子は構造を刺激により制御できるので、その性能を調整できる従来の触媒には無い性能を持たせることが期待できます。

2.今後の展開について
 我々の見出した「らせん選択重合」は、らせんの巻き方向、巻き程度などを自由に制御できる可能性を持ち、更に新たならせん高分子の合成の可能性を秘めています。また、この重合の機構はまだ未解明であり、この解明は他の反応開発への波及そしてキラルの起源への考察へのヒントを与えることも考えられます。
 「らせん選択重合」で得られる「高分子―超分子キラルラダー二重らせん高分子」は大きく5つの特徴を持ちます。(i) 二重らせんのみによるピュアなキラル構造を持つ。(ii) 二重らせん構造は超分子的に固定されており、刺激応答を有する。(iii) ラダー構造を有する。(iv) 分子鎖が剛直である。(v) 分解性を持つ。これらの特長を活かせば、更に高性能な光学分割膜が得られるだけでなく、刺激応答性の分離材料、触媒が期待できます。新しい高分子磁性材料としての検討も行っています。高強度な高分子や生分解性の高分子も期待できます。今後はこの高分子の構造の制御の更なる精密化、そして得られる高分子の自己組織化を進めることでそれによる高選択分離膜の実現、また高選択触媒が期待できます。
 最終的には生体膜を越える高選択透過性を持ちながら、生体膜よりも丈夫で使いやすい膜の開発、そして高分子触媒である酵素の高い反応選択性を持ちながら、酵素よりも安定で使いやすい触媒の開発が目標です。

3.最後に一言(読者に向けてメッセージを)
 私の研究はいわゆる化学をベースにした機能性材料の合成研究です。ある意味で極めて基礎的な分野です。高分子という有機分子の構造、つまりナノサイズの分子構造を精密に制御していき、天然には無い新しいものを、天然よりも優れた機能と自然を乱さない能力を組み込んで合成していく研究です。つまり共有結合の設計による分子構造の制御です。このアプローチは今後も更に進展していくと思われます。さらに最近は、この分子をいかに規則正しく並べるか(組織化)が焦点になってきています。まさしくナノテクノロジーの流れです。この組織化も分子構造の制御に依存しています。
 申し上げたいことは如何に基礎が重要であるかと言うことです。根っこのところから取り組むことが大きな学問の進歩や技術革新を生むのだと思います。しかし、基礎研究は成果が出るまでに時間がかかり、また失敗も多いので最近軽視される傾向が強くなっているのが残念であり、とても心配です。つい最近のノーベル化学賞の日本人3年連続受賞の快挙はおよそ20年前、熱心で優秀な化学者が、周囲の評価を気にせずに自分の興味を元に、小規模にこつこつと行った基礎的な地道な研究が花開いたものです。少なくとも最近主流のすぐに役に立つ主義の研究から生まれたもので無いことは認識しておく必要があると思います。最近、20年前のような環境が無くってきたことを嘆くのは、私のような能力の無いもののわがままなのか、それともどこかに輝くべきせっかくの才能を潰しているのかは、20年後に答えが出ることでしょう。


【研究内容概要】 (高校生の皆さん向け)

 私の専門は高分子化学ですが、もう少し詳しく申しますと、高分子合成、機能性高分子、高分子膜です。噛み砕いて申し上げれば、役に立つ高分子(機能性高分子)を高分子合成と言う手法を用いて作っております。すなわち私の研究室では世の中に無い新しいしかも役に立つ高分子物質を生み出す研究をしております。役に立つ高分子の中心として、分子を見分ける高分子膜をターゲットにしています。
 私たち人間の体は85%は水でできています。この水を体内に一定の条件で保持しているのが、生体膜です。生体膜は必要なものは通れるが、不要なものは通さない(選択透過性といいます)性質を持っています。この性質は極めて生命の本質に近いものです。この選択透過性を合成高分子に持たせるのが私の研究室の第一の夢です。
 さて私たちの体を作っている水以外の成分は何でしょうか?それは生体高分子です。90%が核酸、タンパク質、糖などからできています。この生体高分子と合成高分子の違いはなんでしょうか?本質的には同じ高分子です。しかし、その機能の差は大きいものです。その原因は、生体高分子の構造の精緻さにあります。私の研究室では、生体高分子の精緻な構造を規範とするだけではなく、それを乗り越えることを目標として、精密な高分子を合成しています。
 たとえば、巻き方向の規制されたらせん高分子を合成し、超機能を探索しています。生体高分子のなかにはDNAのようにらせんを巻いているものがあり、その巻き方向は決まっていますが、ふつうの合成高分子では不規則で、らせんを巻いたとしても方向は決まっていません。私たちは合成高分子で巻き方向の規制されたらせん高分子の合成に成功しました。巻き方向が決まっている分子は右と左の構造(つまり鏡像関係の分子)を見分け、分離できる能力を持ちます(つまり光学分割に使えます)。しかも私たちのらせん高分子は超分子的にらせん構造を安定化しているので、構造に刺激応答性を持たせることが可能で調整機能の付与も可能です。



研究プロジェクトの研究内容の図による説明

  1. 新潟大学プロジェクト推進経費に採択された本研究プロジェクトの研究テーマ


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Webサイト管理者:  金子隆司 E-mail kanetaka@gs.niigata-u.ac.jp