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解答の作法
18/11/11 改訂
 
 試験や演習等で解答を書く場合,以下の各項目に従うこと。

例題

 水について \(25^{\circ}\mathrm{C}\) で圧力が \(10~\mathrm{bar} \) 増加したとき,蒸気圧は何パーセント増加するか。水の密度は \(0.997~\mathrm{g~cm}^{-3}\) である。

 圧力の増加分を \(\Delta P\),元の蒸気圧を \(p^{*}\),変化後の蒸気圧を \(p\),水のモル体積を \(V_{\mathrm{m}}(\mathrm{l})\),気体定数を \(R\),熱力学温度を \(T\) とすると
\(p = p^{*} \exp \left( \displaystyle \frac{V_{\mathrm{m}}(\mathrm{l}) \Delta P}{RT} \right) \)
 の関係がある。
指数関数を筆記するときは,exp (x) の形式で表現すること。ex の形式では重要な x の部分が見にくくなるからである。答案とは,本質的に他者に見てもらい評価してもらうものであることを忘れてはならない。
 
 指数関数の級数展開式は
\( \exp (x) = 1 + x + \displaystyle \frac{1}{2}x^2 + \cdots \)
であるから,\(x \ll 1\) であれば2次以上の高次項は無視して
\( \exp(x) = 1 + x \)
と近似してよい。したがって \( \displaystyle \frac{V_{\mathrm{m}}(\mathrm{l}) \Delta P}{RT} \ll 1 \) であるなら
\( p = p^{*} \left( 1 + \displaystyle \frac{V_{\mathrm{m}}(\mathrm{l}) \Delta P}{RT} \right) \tag{1} \)
と近似できる。これを変形すると蒸気圧の \(p^{*}\) から \(p\) への変化率は
\( \displaystyle \frac{p - p^{*}}{p^{*}} = \displaystyle \frac{V_{\mathrm{m}}(\mathrm{l}) \Delta P}{RT} \tag{2} \)
と表される。
 
 密度
\begin{align} \rho &= 0.997~\mathrm{g~cm}^{-3} \\ &= 0.997~\mathrm{g~ cm}^{-3} \times \displaystyle \frac{\mathrm{kg}}{10^3~\mathrm{g}} \times \displaystyle \frac{10^6~\mathrm{m}^{-3}}{\mathrm{cm}^{-3}} \\ &= 997~\mathrm{kg~m}^{-3} \end{align}
「密度」という言葉を書き,「ρ」という記号で表わす。
単位換算の正式な手順。自信がないときこそ丁寧に記述する。通常はここまで詳しく表記する必要はない。ただし,単なる位取りの変更ではなく,数値自体が変わる場合はこのように表記した方が分かりやすい。もし間違いがあったとしても発見しやすい。(例)時間の換算。
 
 温度
\(T = 25^{\circ}\mathrm{C} = (25 + 273)~\mathrm{K} = 298~\mathrm{K}\)
与えられているT の全桁数は2桁であるが,273を加えることにより3桁に増えている。
 
 圧力変化
\(\Delta P = 10~\mathrm{bar} = 1.0 \times 10^6~\mathrm{Pa}\)
ΔPの全桁数は2桁。式(2)の右辺は乗除算のみであるから,最終的な答は全桁数2桁となることがここで分かる。
 
 モル質量
\(M = 1.01 \times 2 + 16.0 = 18.0~\mathrm{g~mol}^{-1} = 1.80 \times 10^{-2} ~\mathrm{kg~mol}^{-1}\)
最終的な答の全桁数2桁を保証するために,自分で用意する数値は3桁以上でなければならない。
計算においてはこの M は「分子量」ではない。
 
 モル体積
\begin{align} V_\mathrm{m}(\mathrm{l}) &= \displaystyle \frac{M}{\rho}\\ &= \displaystyle \frac{1.80 \times 10^{-2}~\mathrm{kg~mol}^{-1}}{997~\mathrm{kg~m}^3}\\ &= 1.80\overline{5} \times 10^{-5}~\mathrm{m}^3~\mathrm{mol}^{-1} \end{align}
「モル体積」という言葉を書き,「Vm(l)」という記号で表わす。それを計算するための数式を示し,どの数値を代入したかを明示する。最後に単位を示す。単位に括弧を付ける必要はない。
3桁と3桁の除算なので一桁増やして4桁とする。
 
 気体定数
\(R = 8.31~\mathrm{J~K}^{-1}~\mathrm{mol}^{-1}\)
精度がもっとも低い数値は2桁のなので,気体定数は3桁用意すれば十分である。
 
 これらの数値を(2)式の右辺に代入すると
\begin{align} \displaystyle \frac{V_{\mathrm{m}}(\mathrm{l}) \Delta P}{RT} &= \displaystyle \frac{(1.80\overline{5} \times 10^{-5}~\mathrm{m}^3~\mathrm{mol}^{-1})(1.0 \times 10^6~\mathrm{Pa})}{(8.31~\mathrm{J~K}^{-1}~\mathrm{mol}^{-1})(298~\mathrm{K})}\\ &= 7.2 \overline{9} \times 10^{-3}\\ &= X \end{align}
真の全桁数は2桁であるが計算途中なので一桁増やし,3桁とする。
 
 これは十分に小さい(\(X \ll 1\))と判断されるので,近似式(1)が利用できる。蒸気圧の変化率は(2)式から
\(\displaystyle \frac{p - p^{*}}{p^{*}} = \displaystyle \frac{V_{\mathrm{m}}(\mathrm{l}) \Delta P}{RT} = 7.3 \times 10^{-3}\)
最終的な答なので2桁に丸める。
 
 答 0.73%増加する。
 
 2次以上の高次項の寄与が無視できることを検証する。
仮定を含む計算では,最後にその妥当性を検証する。
 
 1次項までの値は
\begin{align} 1 + X &= 1 + 7.2\overline{9} \times 10^{-3}\\ &= 1.0073 \end{align}
第1項の「1」は測定値でも計算値でもない誤差を含まない数値である。第2項は小数第4位(10-4の位)までが有効である。したがってこの加算の答は小数第4位までが有効である。
 
 2次項までの値は
\begin{align} 1 + X + \displaystyle \frac{X^3}{2} &= 1 + 7.2\overline{9} \times 10^{-3} + \displaystyle \frac{(7.2\overline{9} \times 10^{-3})^2}{2}\\ &= 1 + 7.2\overline{9} \times 10^{-3} + 0.026\overline{6} \times 10^{-3}\\ &= 1.0073 \end{align}
となり,1次項までの値と同じになる。したがって,上記の仮定は妥当であることが確認される。
加減算と乗除算を同時に行うと位取りがわからなくなることがあるので,別々に行うこと。
 
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