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研究課題
微粒子材料工学研究室(木村)
構造をもつ微粒子材料をつくる
 
微粒子材料
 大きさが数μm~数100μm,ときには1μmよりも小さい粒をミクロスフィアといいます。これらの内側に,もっと小さい別の粒を含めたり表面を別の物質で覆ったりすることで,新しい機能を持つ材料をつくることができます。マイクロカプセルは複合体粒子のひとつの形態と考えることができます。
 
マイクロカプセル
 大きさが1 mmよりも小さい微小容器のことです。その構造からコアシェル型とマトリックス型に分類されます。
 
・コアシェル型マイクロカプセル
 殻状の壁物質の内側に芯物質を含む構造のマイクロカプセルです。芯物質を外界と隔絶しておき,必要な時に壁物質を破壊して取り出す目的に使われます。伝票などの複写紙がその例です。また,液体をマイクロカプセル化すれば,液体を粉として扱えるようになります。
コアシェル型マイクロカプセル
 
・マトリックス型マイクロカプセル
 粒子内部に微粒子状の芯物質が分散する構造,あるいは液体状の芯物質が含浸する構造のマイクロカプセルです。芯物質を長期間に渡って少しずつ放出させる目的に使われます。
マトリックス型マイクロカプセル
 
無機質微粒子材料
 微粒子複合材料は一般にプラスチック素材(有機高分子材料)から作られています。本研究室では,主に無機質の素材を扱います。無機材料は一般に,高い機械的強度,硬度,化学的安定性,耐熱性などを持つのが特徴で,さらに導電性や磁性など普通の有機物では実現できない機能を持たせることができます。
 
液相分散系
 水を油(水に溶けない液体の総称)に加えて撹拌すると多数の水滴ができます。この系をw/o(Water in Oil)分散系といいます。水中に油滴を分散させた系はo/w(Oil in Water)分散系といいます。分散する滴を分散相,その周囲にある通常量が多い方の相を連続相といいます。
 利用する化学反応がふたつの原料物質の間で起こるものなら,一方が分散相に溶けるもの,もう一方が連続相に溶けるものを選択することで,相界面を利用した材料調製に応用できます。ひとつの原料物質に熱や光など外部刺激を与えて反応を起こさせるなら,一方の相に溶ける原料を選択します。化学反応の場を水と油の界面に限定させることができれば,分散滴の形態を維持したミクロスフィアあるいは中空粒子をつくることができます。
w/o分散系
 
o/w分散系
 
 どちらの原料も水溶性のときは,一方の水溶液を使ってw/o分散系をつくり,もう一方の水溶液に投入してw/o/w分散系とします。油相中に適切な界面活性剤を溶かしておくと,外水相から内水相へと反応物質を輸送することができ,化学反応をw/o界面に限定して起こさせることができます。

w/o/w分散系

油滴

内水相滴
 
微粒子材料をつくる原理
 大きな固体を機械的操作で小さくしていく細分化法と,分子状原料を化学反応によって大きくしていく成長法に大別できます。
 
・細分化法
 トップ・ダウン,ブレーク・ダウン,サイズ・リダクションともいいます。
 粉砕が最も一般的な操作です。物理的な作用で固体を破壊し,単純に細分化します。生成する粒子の形状は不規則で,球状粒子,中空粒子,構造を高度に制御した粒子などを得ることはできません。粒子の粉砕と同時に表面を単純に被覆することは可能です。
 
・成長法
 ボトム・アップ,ビルディング・アップ,サイズ・エンラージメントともいいます。
 基本的に化学反応を利用するので,1μm以下の超微粒子を調製するのに適しています。原料物質の反応場への供給速度,化学反応の速度,液相からの固相の析出速度,副生成物の離脱速度などを制御することによって形態を制御することができます。
 
ゾルゲル法
 無機質素材を合成する方法のひとつにゾルゲル法があります。これは,金属アルコキシドの加水分解と脱水縮合により固体を生成する方法です。通常は均一系で行われ,立体,板状,繊維状など,さまざまな形状の材料がつくられています。粒子の合成に関しては,数10 nm以下の超微粒子は容易に得られますが,数μm以上のミクロスフィアをつくることには適していません。
 不均一系である液相分散系でゾルゲル法を行うと,分散液滴の形態を維持した直径が数μm~数100μmのミクロスフィアや中空粒子をつくることができます。原料として金属アルコキシドのほかに,別途合成した超微粒子を利用すれば複合材料を調製することができます。
 
構造に影響を及ぼす因子
・化学的因子
 用いる原料の種類と濃度,反応温度を変えることで反応速度を制御します。
 
・物理化学的因子
 安定剤の種類と濃度,粒子表面の親水性・疎水性,表面電位などを変化させて,凝集や付着を制御します。
 
・物理的因子
 分散系の体積比や撹拌強度を変化させて,分散相滴の分裂・合一を制御します。
 
・操作手順を変える
 原料の添加順序や時期を変えて構造を制御します。
 
本研究室での実例
・水分調整用マイクロカプセルの調製
 吸水性ポリマーを芯物質とし,酸化物層を壁物質とするコアシェル型マイクロカプセルです。土壌に散布したり,家屋の内装に塗布することで,緑化のための保水,水の長期間にわたる徐放,湿度調整などを実現する材料への応用を目指しています。
 
・液相分散系でのゾルゲル法による酸化物ミクロスフィアおよび中空粒子の調製
 ケイ素,チタン,アルミニウムなどのアルコキシドを原料として,それぞれの酸化物微粒子を調製するための基礎的な知見を収集しています。それらは無機質の壁物質あるいはマトリックスをもつ機能性微粒子材料に応用することを目指しています。
チタニア中空粒子
 
破壊して内部を観察
 
・水質浄化用複合体粒子の調製
 シリカミクロスフィア表面にチタニア層を被覆し,内部にフェライト超微粒子を含有する構造の微粒子材料です。チタニアは光触媒として作用し,水中の汚染物質を酸化分解します。微粒化すると活性が高まる反面,取り扱いが困難になる欠点があります。フェライトの複合化によって磁性による回収・濃縮を可能にしました。
 
・長期間持続する抗菌剤含有マイクロカプセルの調製
 シリカミクロスフィアに銀化合物超微粒子を含有するマトリックス型マイクロカプセルです。水に不溶の銀化合物をシリカ内部に固定化することで,長期間の持続性を実現しました。さらにチタニア層で被覆することにより,紫外線による劣化を抑制しました。
 
・再生医療用マイクロカプセルの調製
 生体の硬質組織(骨や歯)の主要無機質構成成分であるヒドロキシアパタイトを壁材とし,コラーゲン等のタンパク質を含有するマイクロカプセルです。骨や関節の欠損部分を補修するために,生体親和性・適合性が高く,吸収性に優れた材料の実現を目指しています。ナノ粒子の化学的活性とマイクロ粒子の取り扱いの容易さを両立するものとして期待しています。
 
・バイオセラミックスの形態制御と機能制御
 水熱合成法によりヒドロキシアパタイト結晶粒子を合成において,鉛筆のような六角柱状粒子から等軸状粒子まで形態を変化させることができます。生体親和性はタンパク質の吸着特性に起因しますが,その性質は結晶面によって異なるので,形態を制御することにより機能を制御することが可能になります。
 
・界面張力の評価方法の検討
 液相分散系における現象を解釈するには,界面物性を把握する必要があります。最も基本的な物性である界面張力を測定する方法にはいくつかありますが,必ずしも液相分散系に適用できる保証はありません。高価な装置を使用しない手法による直接的な評価方法を検討しています。
 
・粒子特性の評価方法の検討
 骨顆粒など異形粒子の寸法やその分布の評価は簡単ではありません。統計学の手法を利用して,信頼性のある評価方法の確立を目指しています。また,評価に必要は最小粒子数の決定方法を検討しています。
 
製造装置
 設計のアイディア次第でどんな複雑な構造の粒子でもつくることができます。しかし,特別な構造の装置は必要ありません。ビーカーなどの槽型反応器と撹拌機があれば十分です。ときには撹拌機でさえも必要ありません。
 
見落としてはいけないこと
 材料調製の研究は,その機能と調製方法にだけ興味が集中しがちです。しかし,どんなに価値のある材料をつくったとしても,それを実際に使える程度まで分離(濃縮)しなければ,現実には何の役にも立ちません。
 洗浄,分離,乾燥といった適切な後処理工程を含めた総括的なプロセスの設計と実施が必要なのです。
 
シリカwetゲル
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